79歳女性はねられ心肺停止、6病院拒否3時間後死亡 : ニュース : 医療と介護 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20081218-OYT8T00510.htm

救急搬送:6病院が拒否、はねられた79歳女性死亡--福島・矢祭 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/science/news/20081218dde041040046000c.html

asahi.com(朝日新聞社):心肺停止の79歳女性、6病院が拒否し死亡 福島・矢祭 - 医療・健康
http://www.asahi.com/health/news/TKY200812180062.html

6病院で受け入れ拒否…1時間20分 交通事故の女性死亡 福島  - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081218/crm0812181637014-n1.htm

 この女性が亡くなられたのは残念なことです。それにしても、患者の受け入れを「拒否」なんて酷い話です。一体何を考えているのでしょうか。 この記事を書いた人は。

 手術中であったり別の患者の処置に追われている状況だったのですから、対応できなくても仕方がなかったのではないでしょうか。まさか「今あなたが治療している患者はどうなってもいいから、この患者を受け入れなさい」なんてことは言いませんよね。

 また、記事の見出しだけ見ると、女性が死亡したのは病院が受け入れを断ったためであるように見えてしまいます。しかし、上で挙げた産経ニュースの記事をよく読むと次のように書いてあります。
 同消防本部は「事故直後すでに女性は心肺停止状態で、すぐに病院に搬送されても助かるのは難しい状態だった」としている。


■あるマスコミ関係者の言い分
 さて、度々報道される「たらい回し」や「搬送拒否」、「受け入れ拒否」といった言葉に対して、私は違和感を覚えます。実際は「受け入れが不可能な状態」であるのなら、それを表す言葉に「受け入れ拒否」や「たらい回し」といった言葉を使うのは不適切でしょう。なぜこういった報道をするのか、All Aboutの記事で報道する側の意見が紹介されていました。

「たらい回し」「搬送拒否」は適切な言葉? - [出産医療・産院選び]All About
http://allabout.co.jp/children/birth/closeup/CU20081203A/
http://allabout.co.jp/children/birth/closeup/CU20081203A/index2.htm

 マスコミの中にも「たらい回し」という言葉は相応しくないと考えている人がいるようです。ただ、代わりに使う言葉は「搬送拒否」よりも「搬送不能」あるいは「受け入れ不能」とした方が、より相応しいのではないかと思います。
 一方で、びっくりしてしまうようなことを言う人もいました。
一方、しっかりと患者側に立った視点が大事だ、と考える報道関係者もいます。ある新聞記者はこう言います。「『たらい回し』は患者の実感そのものを表した言葉。それを『違う』と強調されると『医療者は断られた人の気持ちを理解していないのではないか』と世間から見られるだろう。『受け入れ不能』にすべきだ、という意見もあるようだが、それは個々の病院の状況を表しているだけで患者の困窮を表してはいない。『たらいまわし』という言葉を否定するには、さらなる検証をおこなうことも必要。ほとんどの医師は最大の努力をしているのだろうが、そうではない病院もあるかもしれない」
 随分と想像力が豊かな人のようですね。「そうではない病院もあるかもしれない」から「たらい回し」と呼ぶのですか。こんな理屈が通るなら、何だって非難できてしまいます。

  『たらいまわし』という言葉を 肯定するには、さらなる検証をおこなうことも必要。

 本来ならこのように考えるべきでしょう。

 それからもう一つ
はじめのコメントをくれた記者からは、こんな声も聞かれました。「こんなに困っていたのなら、医療側からもっと早くマスコミに発信してほしかった、という気持ちはあります。医療を責める表現になってしまったのは、お互いに日頃のコミュニケーションが不足していた」
 ちゃんと取材してください。

 ところで、
NHKで報道番組に携わるあるディレクターは「医療者と私たちが話し合える場を持ちたい。私たちも、医療との間に溝のようなものがあるように感じている。まずはそれを解決したい」と言いました。
  これは12月21日に放送された『NHKスペシャル 医療再建 医師の偏在 どう解決するか』という番組のことを指していたのでしょうか。私には、かえって溝が深まりそうな番組に見えたのですが。

NHKスペシャル|医療再建 医師の偏在 どう解決するか
http://www.nhk.or.jp/special/onair/081221.html

■毎日新聞の場合
 一方、毎日新聞では「受け入れ拒否」の報道に関して、次のようなことを書いています。

記者の目:東京の妊婦死亡で医療界と行政に望む=清水健二 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20081218k0000m070149000c.html
 「急患受け入れ拒否」が報道されると、医療界の一部から「医療崩壊を助長する」といったメディア批判が必ず出る。それは筋違いだと思う。誰かに強引に責任を押しつけるような報道は慎むべきだが、報道がなければ関係者は危機感を共有できず、再発防止策も立てられないからだ。また、医療を受ける側に、地域の産科を守る自覚と配慮を促すためにも、現状を積極的に知らせる必要がある。
 「誰かに強引に責任を押しつけるような報道」を今までしてきたのは一体誰だったのでしょうか。「現状を積極的に知らせる必要がある」と考えているのなら、現状をなるべく正確に伝えるようにして頂きたいものです。

■「たらい回し」や「受け入れ拒否」と呼ぶべきでない理由
 そもそも何故「たらい回し」や「受け入れ拒否」と呼ぶのは不適切なのでしょうか。それは誤ったイメージを与えることにより、問題解決ために考えることから遠ざけてしまうからです。

 「たらい回し」や「受け入れ拒否」だと、まるで医師の怠慢であるかのような印象を与えます(実際にそのような反応をしているブログを見かける)。ところが実際は、人員や設備が足りないために「受け入れ不能」の状態です。
 
 誰かを悪者に仕立て上げて非難するだけなら簡単です。しかし、それでは何も解決しません。むしろ悪化する一方です。必要なのは現状を正しく理解することと、どうすれば問題が改善できるか皆で考えることです。そのためにも、マスコミには正確な情報を伝えてもらわなくてはなりません。「たらい回し」や「受け入れ拒否」のように、誤解を招く表現はやめましょう。

コメント

ブログ脳外科医
2008年12月28日7:29

交通事故による心肺停止はまず救命不可能です.そんなことを知らない世間の人が新聞の記事をみたら,搬入を拒否した病院が悪いように思うでしょう.医師がこんな記事をみたらマスゴミがまた病院をたたいてると思うだけです.医療とは不可能を可能にするものではないし,人手も資源も有限で出来ることは限られています.そういうことを一般の人に知らせて社会的コンセンサスを形成するのがマスコミの使命だと思いますが,いつまでもこんな報道してるようではだめでしょうね.

リノール
2008年12月28日12:52

>ブログ脳外科医さん
 何ができて何ができないのかは、私のような素人にはなかなか分かり難かったりします。ですからマスコミには「現状はどうなっているか」、「問題点はどこにあるか」、「改善するために必要なことは何か」、といったことをもっと知らせてほしいです。その方が皆で問題意識を共有できますし、医師を悪者にして解決したつもりになっているよりも、ずっと幸せになれるでしょう。

 たぶんマスコミは、そんなことは考えてくれないのでしょうけれど。

nophoto
都筑てんが
2008年12月29日7:47

10リットルまでの水しか入らないバケツには、11リットルの水は入りきれません。

1リットルの水がこぼれてしまった事で、周囲の人間が「なんだこのクソバケツ!」と足蹴にしたら、

バケツが凹んで、10リットル入れられたはずの物が、9リットルまでしか入らなくなりました。

…っていうのが、今の日本の医療崩壊(ていうか、マスコミによる医療破壊)の現状。

教訓とかそういう以前の問題。

…。
……。
………。

…マスコミの医療破壊は大成功ですね。
http://punigo.jugem.jp/?eid=503
http://punigo.jugem.jp/?eid=500
http://punigo.jugem.jp/?eid=495
http://punigo.jugem.jp/?eid=491

リノール
2008年12月29日16:05

>都筑てんがさん

 最近はインターネットから様々な情報が手に入るようになったとはいえ、まだまだ新聞やテレビは大きな影響力を持っています。都筑てんがさんのブログで紹介しているような反応をする人がいるのも、仕方ないのかもしれません。

 いい加減マスコミには自分たちが何をしているのか自覚してほしいのですが、今回取り上げたAll Aboutや毎日新聞の記事を見た限りではあまり期待できないようです。

>…マスコミの医療破壊は大成功ですね。

 マスコミはわざと医療崩壊させてやろうとしているんですかね。最近そう思うようになってきました。それで誰が得をするのかはわかりませんけど。

マサムネ
2008年12月30日1:01

おととい車に轢かれて祖母の入院してる市立病院に搬送されまし

た。五台ある小田原市の救急車はすべて出払っていて到着まで

20分かかると言われました。救急車に乗っていられる方、骨に

異常がないと分かるまでの間の医療スタッフの対応は巣晴らしか

ったです。神奈川県西部ではおなかの風邪が流行っているらしく

それにかかった小児患者と、それ以外の事故等の患者が運びこま

れぱーテーションが足りないくらいでした。マスコミは自分たち

の言動が社会にどう影響を与えているか知らないで書いている

んでしょうね。少なくとも僕の運ばれた病院の救急医療では

限界を超えて患者を受け入れてました。私が運ばれるときも、

「市立病院はいっぱいだけど受け入れてくれるそうです」と

レスキューの方が言ってました。

私の後にも二人ほど運び込まれていました。医師も足りなければ

多分救急車も足りないのでしょうね。自分がそういうところを

自分の眼で見ていればおいそれと適当な記事をかけないと思いま

す。

リノール
2008年12月30日13:24

>マサムネさん

「ほとんどの医師は最大の努力をしているのだろうが、そうではない病院もあるかもしれない」だとか「こんなに困っていたのなら、医療側からもっと早くマスコミに発信してほしかった」なんてことを言う記者がいましたから、きちんと調べもしないで記事を書いているのでしょう。まったく困った話です。

nophoto
一記者
2009年2月12日19:05

 「ハッカでごはん」さんのご指摘は、いわゆる「たらい回し」を巡る報道について、それなりによくお調べになり、真摯な問題提起をされようとした書き込みであると思いました。
 ただ1点、お書きの論旨に、気になる部分があります。

>上で挙げた産経ニュースの記事をよく読むと次のように書いて
>あります。
>同消防本部は「事故直後すでに女性は心肺停止状態で、すぐに
>病院に搬送されても助かるのは難しい状態だった」としている。

 この引用のご主旨が、よく分からないのです。
産経新聞が、なぜこの談話を載せたのか不明ですが、仮に「どうせ運んでも助からなかった」という意味合いだとしますと、私には強い抵抗があります。

 念のため申し添えますと、心肺停止状態の患者さんにも、蘇生の可能性があります。全国どこの自治体消防でも、概ね「3分以内に処置を始めれば約7割、5分以内なら約5割、7分以内なら約3割が助かる」としています。もちろん、現実にそんな短時間のうちに、蘇生に取り掛かるのはかなり難しく、アメリカでは現実のDOA(来院時心肺停止)患者の蘇生率は15%かそこら、日本国内ではもっと少ないとも、耳にしたことがあります。
 しかし、だからといって、救急隊員や救急医療機関のお医者さんが、心肺停止患者の蘇生を、諦めるわけではありません。現場では人工呼吸や心臓マッサージを行いますし、救急病院でも(受け入れ可能なら)さらに蘇生術を行います。処置を受けて、助かれば良し。不幸にして助からなかった場合も、残された家族は「やるだけのことは、やったのだ」と自分に語りかけ、かけがえのない肉親の死を受容する、第一歩を踏み出すことができる可能性があります。
 その意味も含め、蘇生の努力には、「無駄」と切り捨てていいケースは、一つもないのです。逆に何らかの理由により、救急病院に受け入れてもらう機会を持たず、蘇生術を受け得なかった人や家族の無念は、どれほど大きいことでしょう。

 救急医療を語る場合、本質的にはこの「患者・家族の無念」を出発点にものを考え、いかに「無念」を減らすか模索する視点を、忘れてはならないと思います。日本は現在、特に地方で医師不足が深刻ですから、病院側が十分な受け入れ態勢を維持できないケースは、多々あります。これはいわば「お医者さんの無念」ですね。それはよく分かります。
 しかし仮に「対応出来ないものは、仕方ないじゃないか。医者を悪者にするな」という声ばかりが主流になるなら、何の希望もありません。「できない」を「できる」にするには、どうするかこそが問題だと考えます。この場でせっかく交わされている議論が、もしも単なる「マスコミ・バッシング」に終る場合は、「患者・家族の無念」から…いや、そればかりではなく「お医者さんの無念」からさえも、かなり遠い所に立ったお話に、なってしまう恐れがあると感じます。

 マスコミは基本的に、これらの「無念」に寄り添う視点に立とうとしていますが、しばしば「前のめり」になって、問題提起や提言も含む報道を行うため、ともすれば論調が「病院バッシング」にも見える状態に陥る例もあることは、ご指摘の通りであり、私ども報道人が反省点としなくてはなりません。また、

>度々報道される「たらい回し」や「搬送拒否」、「受け入れ拒否」
>といった言葉に対して、私は違和感を覚えます。実際は「受け入れ
>が不可能な状態」であるのなら、それを表す言葉に「受け入れ拒否」
>や「たらい回し」といった言葉を使うのは不適切でしょう。

とおっしゃるのも、貴重なご指摘と感じます。事件報道については近年、新聞の書き方が、目立たないながら着実に変わっており、容疑者段階の「犯人扱い」や、感情的な「極悪人バッシング」が消えつつあります。医療報道についても、ご指摘の諸点は心に留めさせて頂きます。ありがとうございました。

                       一記者より

リノール
2009年2月13日0:44

>一記者さん

 丁寧なコメントを頂きまして、ありがとうございます。

> この引用のご主旨が、よく分からないのです。
>産経新聞が、なぜこの談話を載せたのか不明ですが、仮に「どうせ運んでも助からなかった」という意味合いだとしますと、私には強い抵抗があります。

 ここで私が言いたかったのは、「患者が死亡したのは、病院が受け入れを拒否したせいである」という誤った印象を与える記事ではないのか、ということでした。産経ニュースの見出しは「受け入れ拒否」が死亡の原因であるかのような印象を受けるものでした。確かに搬送先がなかなか決まらなかったこと、事故にあった女性が亡くなったことは事実です。しかし、実際には「すぐに病院に搬送されても助かるのが難しい状態」であったのなら、記事の見出しとしては不適切だと考えました。そこで、このような書き方ではまずいのではないか、と指摘したつもりでした。「助ける努力を放棄しても構わない」という主旨ではありません。

>しかし仮に「対応出来ないものは、仕方ないじゃないか。医者を悪者にするな」という声ばかりが主流になるなら、何の希望もありません。「できない」を「できる」にするには、どうするかこそが問題だと考えます。

「できない」理由が医師の怠慢であるかのように語られ、一方的に医師を悪者にしていることに対して反発が起きているのではないのでしょうか。仰るように、どうすれば問題を解決できるか考えていくことは重要ですが、それには先ず現状がどうなっているのか知る必要があります。医療現場の窮状を伝える報道を目にすることもありますが、その一方で、ここで取り上げたような誤解を招く報道をしていてはまずいでしょう。

>この場でせっかく交わされている議論が、もしも単なる「マスコミ・バッシング」に終る場合は、「患者・家族の無念」から…いや、そればかりではなく「お医者さんの無念」からさえも、かなり遠い所に立ったお話に、なってしまう恐れがあると感じます。

 確かに、誰かを悪者にするだけでは問題は解決しません。簡単には解決できないのでしょうが、どうすれば良いのか私も自分なりに考えていきたいと思います。

nophoto
ひろゆき
2009年2月23日21:39

難しい問題ですね。最近読んだ本でNHKの元記者が医者になって、マスコミの医療報道を批判的に書いていましたが、この著者も記者時代は医者に対し悪いイメージしか持っていなかったと書いています。立場が変わって初めて見えてくることもあるものだなと感じました。

リノール
2009年2月26日18:50

ひろゆきさん

>立場が変わって初めて見えてくることもあるものだなと感じました。

 仰るように、立場の違う人には見えにくい問題もあるのかもしれません。しかし、「立場が違うと見えにくいこと」を知らせるのもマスコミの役割ではないのでしょうか。ですから尚のこと、「現状はどうなっているのか」といった私のような素人からは見えにくいことを、もっとマスコミが知らせてほしいと思っています。

 ところで、ひろゆきさんが読まれた本とは「医者の言い分」というタイトルの本のことでしょうか。興味が出てきたので今度読んでみようと思います。

nophoto
ひろゆき
2009年3月6日11:30

リノールさん。「医者の言い分」です。赤い表紙です。

リノール
2009年3月6日16:21

ひろゆきさん

ありがとうございます。この本ですね。

http://www.chukei.co.jp/cgi-bin/books/detail.rb?o_id=3282

近所の本屋ではみつからなかったので、もう少し大きな本屋で探してみようと思います。