すでに二階大臣は撤回しましたが、 「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」という発言について幾つかの団体から抗議が寄せられていました。抗議した団体の一つである「県立柏原病院の小児科を守る会」の声明文を読んでみたところ、気になることが書いてありました。

県立柏原病院の小児科を守る会
http://mamorusyounika.com/index.html
 私たちの地元の兵庫県立柏原病院も43人おられたお医者さんが、3年ほどで20人にまで減りました。今年8月、病院のすぐ近くで開かれた医療フォーラムで兵庫県知事は、こんなあいさつをされました。

「もっと情熱に燃えた医師と地域が協力し、医療を確保している所がある。我々も負けてはおれぬ」

 半分に減った医師数で身を粉にして働くより、医師数が多い別の病院に移った方が、お医者さん自身は幸せでしょう。しかし、自分の幸せよりも、患者の、住民の幸せを優先し、地域医療を支える道を選んで頂いている。そんなお医者さんに対して、「もっと情熱に燃えた医師が」などと、あたかもお医者さんの情熱に問題があり、お医者さんの情熱不足が医師不足や地域医療の低下を招いているかのような発言をされたことに、落胆しました。お医者さんたちに申し訳なく、涙がこぼれそうになりました。

兵庫県知事が、 「もっと情熱に燃えた医師と地域が協力し、医療を確保している所がある。我々も負けてはおれぬ」と言ったそうです。

医師の「情熱」や「モラル」でどうにかなるような問題ではありません。この兵庫県知事や二階大臣のように、組織のトップにある人がこのような発言をしているということは、同じような考え方をしている人(あるいは、そういう人達を支持している人)が他にも沢山いるということなのでしょうか。今更ですが、暗澹たる気持ちになってきました。


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ところで二階大臣の発言に対する舛添大臣の見解が気になっていたのですが、11月13日の参議院厚生労働委員会で足立信也議員が舛添大臣に質問していました。
こちらで映像も確認できます(映像だと31分頃)

参議院インターネット審議中継 -ビデオライブラリ 会議検索-
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/library/reference.php?page=1&cd=2900&tx_mode=consider&sel_kaigi_code=0&dt_singi_date_s=2008-09-12&dt_singi_date_e=2008-11-13&tx_speaker=&sel_speaker_join=AND&tx_anken=&sel_anken_join=AND&absdate=2008-11-13&sel_pageline=10&dt_calendarpoint=2008-10-13&abskaigi=no

舛添大臣の答えは、「その時には特に気が付かなかったが、確かに不適切な発言だった」というような内容でした(かなりいい加減にまとめてみました)。

[追記]
時間がない方はこちら(質疑応答の内容を文字に起こしてあります)

産科医療のこれから: 足立信也議員 11月13日 参議院 厚生労働委員会質疑応答o(^-^)o ..。*♡ (上)
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/11/post-1341-31.html

産科医療のこれから: 足立信也議員 11月13日 参議院 厚生労働委員会質疑応答o(^-^)o ..。*♡ (下)
http://obgy.typepad.jp/blog/2008/11/1113o-o-3b63.html

コメント

ブログ脳外科医
2008年11月16日12:45

公立病院に勤務した医師であれば,医師と同等かそれ以上の待遇の事務職に病院の赤字の責任を押し付けられるという経験をしたことがあるはずです.地方議会では病院長が赤字の責任を問われます.そんな院長も議会対策や経営改善の会議に忙しいことを理由に現場ではほとんど働きません.古くから働いている部長たちも口はうるさいですが,自分では働きません.結局,大学からの短期の出張医がすべてを背負って働き詰めになるのです.今ほど医師の労働市場は開放的ではなかったので,一人前になるまで逃げることもできませんから,労働に見合わない安月給で働くしかなかったのです.しかし,今はその気になれば研修が終わればどこで働くのも自由なのです.だから,大学院のお礼奉公とか,大学病院に戻るつもりでなければ公立病院に残る人は激減したのだと思います.政治家はどうせ現場のことなどわからないでしょうから,医師を悪者にする事務職と同類なだけだと思います.一般の人も含めて医師の悪口を言うのは言論の自由かもしれませんが,医師の中にそういう人たちへの見えない悪意がつのるだけで,最終的にその報いは救急医療の崩壊あるいは労働環境の悪い病院の患者や家族に見えない形で向かっていくのではないかと危惧しています.医師免許があっても所詮普通の人間ですから,劣悪な環境で長時間働かされたり,身に覚えの無いことで非難や中傷を続けられればモラルの低い者が生じてもなんの不思議もないのではないでしょうか.


リノール
2008年11月17日22:30

>ブログ脳外科医さん

苦労を強いられるばかりで一向に報われる気配がなければ、そんな状況で働くのは誰だって嫌になるでしょう。

前回書いた記事のコメント欄で出た話は極端な例だったのかもしれませんが、働く上で忍耐を強いられる一方であるならば、そういう人が出てくるのも仕方がないことなのでしょうか。

困ったことではあるのですが、そんな状況を作ることに自分も(積極的にか消極的にかは別として)加担していたのだろうということを考えると、頭が痛くなってきます。おかしな発言をする政治家を選んでしまったり、医師の労働環境を改善する努力を怠ったことが、自分たちへの不利益として戻ってきただけのようにも思えるのです。