大野病院事件の判決が出ました。「無罪」です。妥当な判決だろうと思います。
福島・大野病院医療事故:帝王切開判決 無罪に医師、安堵 女性の父、目閉じ (毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/science/news/20080820dde041040010000c.html
遺族が知りたかった「真実」というのも、どうやら遺族にとっては不十分なものであったようです。この裁判での目的は、患者が亡くなったことに対する医師の責任を問うことですから、仕方ないのかもしれません。もっとも、遺族の男性が医師のことを「許さない」と言っていたことから、本当に求めているのは「医師が悪いとする結論」ではないのかという気がしてしまいます。
結局、この医師を逮捕して一体何になったというのでしょう。現場の医師に「結果が悪ければ逮捕される」という不安を与えたこと、その結果として患者側も不利益を受ける懸念が出てきたこと、そして一人の医師から2年半もの時間を奪っただけだったのでしょうか。
無罪の判決こそ出ましたが、問題はそこで終わりではありません。進行中と言われている医療崩壊をどうすれば止められるか、医療事故(ここでは過失の有無は問わない)や難しい症例での死亡が起きた場合にどう対応するべきか、といったことは考え続ける必要があるのでしょう。
福島・大野病院医療事故:帝王切開判決 無罪に医師、安堵 女性の父、目閉じ (毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/science/news/20080820dde041040010000c.html
医師の判断に「過失」はなかった−−。全国の医療関係者が注目した「大野病院事件」で、無罪判決が言い渡された。判決の瞬間、医師の加藤克彦被告(40)は小さく息をつき、安堵(あんど)の表情を見せた。昨年1月の初公判から判決まで15回の公判すべてを傍聴した被害女性の父渡辺好男さん(58)は前かがみで目を閉じ、聴き入っていた。【松本惇、清水健二】当時の患者だった女性が亡くなってから約4年、被告となった医師が逮捕されてから2年半が経っていますが、出てきた答えは「医師のしたことは標準的な医療行為である」というものでした。医療行為として間違っていないのであれば、たとえ残念な結果であろうと医師を責めることなんてできません。警察と検察は、どうしてこの医師を逮捕・起訴したのでしょう。
福島地裁1号法廷。午前10時すぎ、スーツ姿の加藤医師が入廷。被告席に着く際、裁判長と傍聴席の遺族にそれぞれ一礼した。「被告人は無罪」。鈴木信行裁判長の声が法廷に響くと、直立不動で聴いていた加藤医師は、ほおをふくらませ、小さく息をついた。
判決言い渡しを終えた鈴木裁判長が、最後に「これが裁判所の結論です」と述べると、加藤医師は裁判長に向かって深々と頭を下げた。検察側にも2回会釈し、表情を崩さないまま法廷を後にした。
加藤医師は初公判から「切迫した状況でできる範囲のことを精いっぱいやった」と無罪を主張しつつ、謝罪も口にし、今年5月の最終意見陳述では「できる限り一生懸命行ったが悪い結果になり、非常に悲しく悔しい思い」と述べていた。
一方、死亡した女性は出産後、対面した長女の手をつかんで「ちっちゃい手だね」と声をかけたという。その後胎盤剥離(はくり)を経て容体が急変し、出産の約4時間半後に死亡した。
渡辺さんは判決を控えた今月12日、毎日新聞の取材に応じ、公判で繰り返し謝罪した加藤医師に対し「わびるなら、娘が生きている間になぜ医療の手を差し伸べてくれなかったのか。絶対許さないという気持ち」と怒りをあらわにした。
娘の死の真実を知ろうと、医学用語をはじめ、帝王切開手術の知識を医学書やインターネットで調べ、ファイルにまとめた。医療事故を機に生活は一変し、「笑顔がなくなった」と語る。孫に「母親」を意識させたくないと、家族連れが集まる場所には連れ出さないという。
◇「混乱収束のため、控訴せぬように」−−日産婦理事長
吉村泰典・日本産科婦人科学会理事長は「被告が行った医療の水準は高く、医療過誤と言うべきものではない。癒着胎盤は極めてまれな疾患であり、最善の治療に関する学術的な議論は現在も続いている段階だ。学会は、今回のような重篤な症例も救命できる医療の確立を目指し、今後も診療体制の整備を進める。医療現場の混乱を一日も早く収束するため、検察が控訴しないことを強く要請する」との声明を出した。
◇出産は危険伴う/再発防止へ教訓学べ
今回の無罪判決に、関係者からは「妥当だ」「事故の教訓を生かして」など、さまざまな声が上がった。
日本産科婦人科学会の調査によると、妊娠・出産に伴って命にかかわる緊急治療を必要とする女性は250人に1人と推計されている。調査を担当した国立成育医療センターの久保隆彦・産科医長は「一般に妊娠・出産は危険な行為であるということが知られていないが、産科医は数多くの危険な妊婦を助けてきた。有罪になれば、こうした妊婦を対象にした医療行為が否定され、産科医療の崩壊に拍車をかけるところだった。判決は極めて妥当な判断だ」と語った。
加藤医師の支援活動をしてきた上昌広・東大医科学研究所特任准教授は「今回のような医療事故を法廷で真相究明することの限界が明らかになった。これを機に医療事故における業務上過失致死罪の適用について国民的な議論が必要。司法関係者も、医療事故に刑法を適用することの是非をもっと議論すべきだ」と話した。
25年前に医療事故で娘を亡くした「医療過誤原告の会」の宮脇正和会長(58)は「医療界は刑事訴追への批判だけで終わらせず、この事故からリスクの高い医療行為の際には応援医師を呼ぶなどの体制を取るべきだという教訓を学び、再発防止に役立ててほしい」と訴えた。
毎日新聞 2008年8月20日 東京夕刊
遺族が知りたかった「真実」というのも、どうやら遺族にとっては不十分なものであったようです。この裁判での目的は、患者が亡くなったことに対する医師の責任を問うことですから、仕方ないのかもしれません。もっとも、遺族の男性が医師のことを「許さない」と言っていたことから、本当に求めているのは「医師が悪いとする結論」ではないのかという気がしてしまいます。
結局、この医師を逮捕して一体何になったというのでしょう。現場の医師に「結果が悪ければ逮捕される」という不安を与えたこと、その結果として患者側も不利益を受ける懸念が出てきたこと、そして一人の医師から2年半もの時間を奪っただけだったのでしょうか。
無罪の判決こそ出ましたが、問題はそこで終わりではありません。進行中と言われている医療崩壊をどうすれば止められるか、医療事故(ここでは過失の有無は問わない)や難しい症例での死亡が起きた場合にどう対応するべきか、といったことは考え続ける必要があるのでしょう。
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