五輪レスリング:銅メダルマットに投げつけ、はく奪処分 (毎日新聞 2008年8月16日)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080817k0000m050046000c.html
国際オリンピック委員会(IOC)は16日、北京五輪のレスリング男子グレコローマンスタイル84キロ級(14日)の表彰式で、授与された銅メダルをマットに投げつけたアラ・アブラハミアン(スウェーデン)に対し、失格とメダルはく奪の処分を決めたと発表した。順位の繰り上げは行わない。

 IOCの規律委員会は、15日にアブラハミアン本人らを呼んで聴聞会を実施。アブラハミアンは「準決勝の判定への不満が背景にあったが、五輪や他の選手に対する行為ではなかった」と弁明したという。

 これに対して規律委員会は、メダルを投げつけた行為を正当化する理由にはあたらないと判断。フェアプレーの尊重や、あらゆるデモンストレーション(示威行動)の禁止を定めた五輪憲章に違反するとして、失格とメダルはく奪の処分を上申。16日に開いたIOC理事会で承認した。

 アブラハミアンは04年アテネ五輪では銀メダルだったが、この時も決勝の判定に不満を示していた。
ニュースで流れた映像を見た限りでは、「投げつけた」よりは「置いた」と表現するほうが妥当な気がします。

それはさておきまして、アブラハミアンが不服としている判定がどのようなものであったか、調べてみました。問題になっているのは、グレコローマンスタイル84kg級準決勝第2試合の第2ピリオド終了間際の判定です。

この時の映像があったので見てみました。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm4298447
この試合の第1ピリオドは、赤のミングッツィ(イタリア)が取りました。第2ピリオドは1−1のスコアで終盤を迎えます。この時、クリンチの攻防が行われており、攻撃側がミングッツィ、防御側がアブラハミアンでした。30秒間で攻撃側がポイントを取れなかった場合、防御側の選手に1ポイントが与えられます。私が映像を見た限りでは、防御側のアブラハミアンが攻撃を防ぎきったように見えました。レフェリーも右手を上げ、青のアブラハミアンが1ポイント獲得したことを示しているように見えます(赤の選手にポイントが入る時は左手を上げる)。その結果、2−1でアブラハミアンがこのピリオドを取ったかに見えました。

ところがアブラハミアンが猛然と抗議を始めました。マット上では赤のミングッツィが勝者として手を上げられています。どうやらアブラハミアンのポイントが認められず、ミングッツィにポイントが入っていたようです。最終的なスコアを見ても、第2ピリオドは2−1でミングッツィが取ったことになっています。レフェリーはアブラハミアンのポイントとしているように見えましたが、ジャッジとチェアマンはミングッツィのポイントとしたということなのでしょう。
※レスリングの審判は、レフェリー(マット上で笛を吹く人)、ジャッジ(マットの横にある席から判定する)、マットチェアマン(マットを挟んでジャッジの反対側に座る)の3人で行う。レフェリーとジャッジの判断が分かれた場合はマットチェアマンが最終判断を下す。

どうしてアブラハミアンではなくミングッツィのポイントになったのかわからなかったのですが、どうやら試合終了の前にアブラハミアンが反則を取られたことが理由だったようです。

スカンジナビア・ニュース〜Skandinaviska Nyheter〜:レスリングのアブラハミアン、銅メダルはく奪へ「まったく後悔していない」
http://skandinaviska-nyheter.livedoor.biz/archives/900775.html
問題のシーンは、第2ピリオド。第1ピリオドを落としたアブラハミアンは、1対1で迎えたこのラウンドで、守備となるクリンチに。だが、アブラハミアンはミングッツィの攻めに持ちこたえ、得点ボードにはこのスウェーデン人にポイントが表示された。このポイントにより第2ラウンドを制したアブラハミアンはコーナーに戻り、運命の最終ラウンドの開始を待つ。だが、スイス人とキューバ人の審判は、先ほどのクリンチでアブラハミアンに何らかの反則があったと判定。よってポイントはミングッツィに与えられ、試合は突如として終了。ミングッツィが決勝進出を決めた。
激昂したアブラハミアンとレオ・ミーレリ・コーチは審判団に抗議するも、結局判定は覆らなかった。
比較的よくあるのは相手の技を防ぐために相手の腰より下を触る、あるいは脚を使って技を防ごうとする、という反則ですが、そういったことをしているようには見えませんでした。クリンチの攻防がスタートする時にレフェリーの合図よりも早く動き出してしまうケース(つまりはフライング)もありますが、それならば即座に試合が止められるはずです。(あくまでも私が見てそう思ったというだけです。見るべき人が見ればわかるのかもしれません。)

結局、アブラハミアンの反則とは何だったのでしょうか。そして、反則とした判定は妥当だったのでしょうか。世界選手権などでは微妙な判定となった場合にビデオチェックが行われていますが、今回は実施しなかったのでしょうか。IOCとFILA(国際レスリング連盟)の調査で明らかになることを期待しています。

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